第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
それから数刻――現代で言う所の、昼下がり。
家康が彼女との待ち合わせ場所に着いてから、暫くの時間が経っていた。
ひゅう、と時折吹き抜ける風は冷たいが、陽射しは暖かく。
眼の前、梅の木に桃色の蕾が綻んでいるのを見つけた。
そして、家康は耳聡く。
自分の方に向かい背後から駆けてくる、忙しい足音に気付く。
誰の物か、なんて考えなくても分かる――
「いえやすーっ!!」
そして漸くかけられた、いつも通り威勢の良い呼び声に。
待たせた事の文句をつけようと言わんばかりに、振り向いた意地悪な顔はしかし…すぐに驚きで見開かれた。
「ハッピーバレンタインーっ!!」
「はぴ…ばれん?」
彼女の顔より大きい包みの後ろから、いつにも増して嬉しそうな、盛大な笑顔が覗く――
「ふふ、はっぴーばれんたいん。
いつもありがとう!大好き!みたいな意味だよ」
素直な言葉に照れるのも忘れて、家康はつられるようにふわり、と笑った。
「…最近企んでたのは、それ?
俺の方こそ、いつもありがとう」
花梨糖の包みごと、家康の腕が彼女を包み込む――そしてそれを見つめる、二人分の影。