第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
ぼんっ!!!
大きな音を立て、破裂した球から。
もくもくと立ち込める煙をモロにくらい、彼女はげほげほと咳き込む。
きゃ、と隣の千花の小さな叫び声が聞こえ、慌てて涙目を凝らした――煙の晴れた向こう、元いた場所に千花の姿は見えず。
焦っている中、落ち着き払ったままの信長の声が聞こえてくる。
「…佐助か」
「信長様…此の度は、うちの同僚が大変失礼しました」
「全くだ、挨拶も無しに、な」
くつくつと笑う信長に、もう先程までの殺気は無く。
安心した彼女は、ごしごしと燻された目を擦り。
漸く煙の中心であった辺りに、二人の姿を見つけた。
心配気にぎゅっと千花の身を抱える佐助と。
それに照れながらも、やわやわとしがみつく千花に、彼女はもうニヤニヤが止まらない。
「佐助くん、また千花ちゃんに会わせてね」
「あぁ…この人がヘマをしなかったら、またその内女中に紛れてるんじゃないかな」
「早く行け…本当に引っ捕えてやろうか、貴様ら」
信長の払い手に、佐助は眼鏡を整えると。
天井裏に飛び上がろうと脚に力を込めた…その時。
がたり、と音を立て襖が開かれる――
「佐助!ちょっと待った!」
「千花様、お忘れ物です!」
秀吉の呼び声に、佐助は動きを止める。
そして三成が投げた、大きな風呂敷包を千花は見事にキャッチした。
そして嬉しそうに微笑むと、深く頭を下げる。
「千花ちゃん!佐助くん!忍びだろうとなんだろうと、二人は私の友達だからね!」
「姫様っ…ありがとうございました!ばれんたいん、頑張りますねっ…!!」
二人の会話の終わりを待って。
佐助は今度こそ、千花の身を抱いたまま飛び上がった――
「それでは、これにてどろん」