第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
秀吉と三成に連れられ、天主に上がる。
そっと背を押してくれる二人に促され、信長の間へと足を踏み入れると。
いつも通り、信長は上座に座り、脇差に凭れ寛いでいた。
真っ直ぐ射抜くような視線に、思わず顔を反らす千花に対して。
彼女は慣れっこなのか、緊張感もなくおはようございます、と声を上げる。
「御早う…其処の女中。貴様、忍びだな」
挨拶もそこそこ、突然核心を切り出す信長に、びくり、と千花の肩が震える。
「…信長様。忍びである以前に、千花ちゃんは私の友人です」
「何か意図があって、貴様に近付いたやも知れんとは考えなんだか」
「それ、は…」
姫様が口ごもり、俯いている――これ以上、辛い思いをさせたくない。
千花は握った手にぎゅ、と力を込める。
「私は確かに忍びです、が…此度の滞在には、誰の命も受けておりません」
「その言葉を裏付ける証拠はあるのか?」
信長がすっと目を細める。
凄みのある表情に、二人の身体はびくり、と強ばる――
「俺の城で好き勝手をした、罰は何が好い」
「信長様っ、そんな罰だなんて!それなら私も一緒に受けますっ…!」
「姫様、その様な事は…!」
二人が涙を一杯に貯めた、目を見合わせたその瞬間。
ころん、と二人と信長の間に、丸い球が投げ込まれた。
千花は見慣れたそれに、咄嗟に口と鼻を手で覆い。
信長は持っていた扇子を翳す――