第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
「…おはよ、千花ちゃん…」
「…おはようございます、姫様…」
結局夜なべに近いほど、バレンタインの朝ギリギリまでラッピング作業を続けていた二人は。
いつの間にか寝入ってしまった身体を、朝の光の中で緩慢に起こし目を擦った。
お泊まり会…女子っぽい…
この世へと来てから、こんな風に他人と触れ合うのは初めてのことだった。
感動しながら、夥しい数の花梨糖の包みを数え、千花と自分の取り分を仕分けていく。
千花は自分の分を、越後へと持ち帰るため風呂敷に包む。
長らく忍びとして生きてきたから、こんな風に普通の娘として過ごしたのは何時ぶりだろうか。
そんな感慨にふけりつつ、身支度を整えた。
「おはようございます…もう、起きてらっしゃいますか?」
するとそこに、見計らった様に三成の声がかかり。
はーい、と声を上げ、彼女は襖を開く――何処か緊張めいた、三成と。
そして何処か険しい、秀吉の顔が覗く。
「早くからすまないな、信長様がお呼びだ…
千花も共に、と」
「…私、ですか?」
千花の顔がさっ、と青ざめる。
彼女はそれを支えるように、千花の手を取った。
――二人がかりで迎えにこられては、行かないわけにもいかない…逃げてしまっては、姫様にご迷惑がかかるだろう。
そう腹を括り、千花はおずおずと足を踏み出した。