第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
「それでは、姫様。
僭越ながら始めさせて頂きます」
「はーいっ!千花先生、お願いしますっ」
「そんな、先生等と大したものでは…と、とりあえず宜しく御願い致します…!」
来客時などに使う、小さな厨。
そこを女中達に頼み込んで空けてもらった二人は、用意した幾種の粉に水を足し、どんどん溶き合わせていく。
そして菜種油で、程よい大きさに固めたそれを次々に揚げていく…
更に、それが冷めない内に黒砂糖を熱して作った糖蜜をかけ――
「出来ました…花林糖、です」
「わわ、手作りしたのは初めてっ!でも思ったより、簡単に出来るんだね」
「お、珍しいな。何作ってんだ?」
その声に、彼女はびくり、と驚き。
後ろから興味深げに覗き込む政宗に漸く気付いて、口をむすり、と曲げた。
「政宗っ!外に男子禁制って貼ってあったの、見えなかったの?」
「…あ?はは、目に入らなかったみたいだ。それより、南蛮菓子の花林糖か?
よく知ってたな、こんな物の作り方」
「ふふ、女中の千花ちゃんに教えて貰ったんだよー」
その言葉に、千花はぺこり、と政宗に向かい頭を下げる。
政宗はへぇ、と感心したような声を上げた。
「女中がよく知ってたな、千花と言ったか?」
「…はい。謙信さま…
いえ、以前の奉公先が南蛮の物に興味がお有りで。色々と、教えて頂きました」
そんな事を話している間にも、周りの糖蜜はどんどんと固まっていき。
光を照り返し、黒く輝くまでに艶めいている――
「…でも、これじゃ色合いが…なぁ?」
政宗が、何かを思いついたようににやり、と笑った。
二人は期待を込めた目で、その手先を一心に見詰める。