第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
「あ、おはよー家康っ」
「おはよう。佐助はもう帰ったの」
「んー、どっかにいるんじゃないかな?多分」
そして、次の日の朝。
場内の廊下でばったり、彼女と出くわした家康は挨拶を交わす…しかしその後ろ、所在なさげに立ち尽くす見慣れぬ女中…千花に気付いた。
「その女中…」
「これは、お二人ともおはようございます!」
言葉の途中で、三成の登場に思い切り顔を顰める家康。
その隙にと言わんばかりに、彼女等は揃ってさっとその横を摺り抜ける――
「おはよ、三成くん。じゃね、家康!」
手を振って足早に去っていく彼女と千花の背を、二人は不思議そうに見つめる。
しかし家康は、というと。
先ほど三成に遮られてしまって、出来ずのままの質問を反芻し――
――何を、企んでいるのやら。
いくら彼女でも、何用もなく佐助を呼び付けたりはしない。
最近何やらそわそわしているから、また悪巧みをしているのだろうと察しはつく。
面倒な反面、何処か楽しみだと思ってしまい、小さく笑う家康。
そして、それを微笑ましく見つめる三成に気づき…
またいつものように無表情に戻した顔を、すっと逸らすのだった。