第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
彼女は、立ち去る佐助を手を振って見送ると。
暫くきょろきょろと視線をさ迷わせ――
そして、ある一点に目を止めた。
――同性だから気付く、ね。成程。
心の中でそう呟きながら、徐ろに立ち上がり。
部屋の隅に置いていたハタキを手に取って…
目を付けていた天井板をこんこん、とつつく――
「すいませーん、もしあってたら…とりあえずお話だけでも、どうですか?」
びりびりと震えるような緊張感が漂う―――もう一人の、彼女、から。
おずおずと天井板を外し覗いた、その顔ににこり、と彼女は笑いかける。
「ささ、どうぞどうぞー!」
気の抜けるような呼び声に、面食らいながら。
安土城内に数多いる、女中の装いをした彼女が部屋へと下り立つ。
「まず、お名前は?」
「…軒猿の…名前は明かせません。千花とでも、呼んで頂ければと」
「千花、さん…ところで、甘味を作るのは得意?」
忍び込んでいるのがバレた…てっきり捕えられるかのではないか、そう思いビクビクとしていた矢先の思いがけない質問。
先の読めない展開に面食らう千花に、彼女はふふ、と楽しげな笑みを浮かべた。