第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
「ところで佐助くんってさ、彼女とか!いるの?」
「…いや、全く」
彼女の部屋に訪問してから暫く経って。
忘れていた、と出されたお茶に佐助は口をつける。
それと、ほぼ同時に。
不躾にぶつけられた質問に、お茶を吹き出しそうなほどの衝撃を受けるが…
しかしそれをお首にも出さず、いつも通り淡々と答える。
彼女はつまらなーい、と口を尖らせた。
「せっかくイケメンなのに?」
「イケメンなんて光栄だけど、俺は別にそう言うのは。現代でも研究ばかりしていたし」
「でもさ、元の世に戻りたいとかも無いんでしょ?」
「…まあ、それはそうだけど」
すると、彼女は急に何かを感じ取ったかのように、くるり、と辺りを見渡した。
佐助は何だろう、と様子を伺う…そして遠くからすたすたと、足音が近寄ってくる。
「失礼するよ…っと、」
がらり、と襖を開け。
入ってきたその姿に、佐助は思わず居住まいを正した――徳川家康公。
目の前の彼女の恋人であり、自らの敬愛する武将でもある…勝手に部屋に上がり込んで、誤解されては堪らない。
そして、鈍そうな彼女がこうして自分より先に気づくというのは…やはり恋慕の力だろうか、等と推測する。
「あ、家康ー!お疲れ様ー!」
「…あぁ、佐助が来るって言ってたっけ。邪魔したね」
「…お邪魔しています。家康様、何か御用があったのでしたら出直します」
「そういう訳じゃない。手が空いたから来てみただけ…まぁ、ゆっくりして行きな」