第5章 【徳川家康】日和姫
もしかして、意地を張っていた事、演技めいた振る舞いをしていた事――その全てを見透かされているのかもしれない、と。
そこで千花は漸く思い当たる。
そして今までの自分の行いに、羞恥を覚えて俯いた。
真っ赤に燃え上がった頬に、先程の勢いが嘘のような優しさで、家康の手が添えられる。
「ついでに言っとくけど、俺とあいつ、三成は違うから…あんたとお市が、違うように。
…あんたの思い通りになってやるつもりなんて、さらさら無いし…
その逆も、勿論そうでしょ」
友人であるお市への羨望までも言い当てられ、思わずほろり、と。
千花の大きな瞳から零れた涙を、家康の指が受け止め、払い除けた。
そして、思わず目を見張る様な、柔らかな笑顔を見せた家康は。
千花の耳元に寄せた口からそっと、厳かにも聞こえる口振りで呟く――
「…堕としたい、なら。有りの侭の千花で、出直しておいで」