第5章 【徳川家康】日和姫
「…最後の、見送り。来なかったわね…やっぱり家康は意地が悪いわ」
帰りは籠ではなく、馬を選んだお市と千花が。
長いようで短かった、二日間の安土での逗留に思いを馳せながら、駆けていく。
千花の気持ちを思い、少し泣きそうになりながら言葉を発したお市は、しかし。
他ならない千花の表情に、首をかしげた。
「千花?…ちょっと?」
「先を急ぎましょ、お市。暗くなってはいけないから」
「ちょっと!?私になにか隠し事してるわよね !?ねぇってばー!!」
――だって、私から報告出来ることなんて何もないんだもの…今は、まだ。
ふふ、と千花は微笑みながら。
更に速度を速めるよう、鐙を蹴る――
これからの道のりを予感させるような、泣きそうな程綺麗な夕日に向かって。