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【イケメン戦国】短編集✲*゚

第5章 【徳川家康】日和姫





千花は、朝の庭園を一人そぞろ歩いていた。
まるで幼子のように、お市と隣同士に布団を敷いて寝ていたが、彼女は昨日羽目を外しすぎた様で、未だ夢の中だ。


今日の昼過ぎには、出立になる。
ざわめく気持ちのまま、二度寝も出来ず。
じっとしている事も出来なくて、そっと部屋を出てきた。


朝露が葉から零れ落ちる、そんな小さな音すら聞こえそうな静寂を味わいながら。
見事な庭園にきょろきょろと目を移しながら、歩を進めると、微かな物音を耳が拾った。




「…矢の音?」



ひゅう、と風切りの音と、その後真っ直ぐに的を射抜いた事が分かる、ぱん、と響く様な音。
音のなる方へ、誘われる様に更に庭園を奥へ奥へ、そして抜けた先で、思わず息を飲んだ。





「…家康様、」



射場に立ち、弓道の正装である馬乗袴を纏って。
朝の白い光の中、矢を番える家康の姿を見つけ…
千花は思わず高鳴る胸に、押さえるように手を当てる。


そしてまた、矢は弓から放たれる。
正確な、狂いの無い放物線を描き、ど真ん中を射止めた。
まるで当たり前の様にそれを見やった家康は、的場に下りて矢を抜くと、戻ろうと振り返る。


そして必然的に千花の姿を見つけ、小さくため息をついた。
その態度に、また千花の心はささくれ立ち、思わず俯くも。
健気に今日が最後なのだ、と自らに言い聞かせ、顔を上げた。


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