第5章 【徳川家康】日和姫
「…そうだったわね。その後、私が様子のおかしい千花に気付いて問い質して」
「家康様が織田家に居て、お市とも知り合いだって聞いて、びっくりしたのよね」
「家康に好きなおなごについて無理やり聞き出したら、弱い女は嫌いだ、なんて言うから…千花は無理やりこんな風に、強い風を装って」
「でも、もう何年も繰り返してるから…すっかり、染み付いてしまったかな」
ふふ、と楽しげに笑う千花とは対照的に、お市は少し苦しげにも見える笑みを返した。
「家康じゃなくて、秀吉や三成なら…優しいし、千花にぴったりなのに」
「それは、お市の好きな男子でしょう?長政様もお優しいものね」
「…なら、千花は意地悪な殿方が好きなのね」
そんな、からかう様なお市の物言いに。
千花は形の良い眉を潜め、つん、と口を尖らせた。
「…家康様は、本当はお優しいのよ?」
「はいはい、千花に取っては…そうなのかもね?」
「もう、お市!」
忌憚の無い女同士の会話は弾み…その後、宴の準備が出来た、と三成がおずおずと襖を開くまで続いたのだった――