第4章 【徳川家康】ちびっこシンドローム
届くかどうか不安になり、思いっきり叫んだ言葉と同時に、風の勢いはさらに増す。
そして、手の中の温もりが突然消え――
替わりに、力強い腕が、私を抱き寄せる。
ふわり、と最後の風が花を揺らした。
おずおずと開けた目に、変わらない春の野原の風景が飛び込んでくる。
そして、肩口に顔を埋めた、見慣れたふわふわの髪の毛に、手をやった。
暫く弄んでいると、ぽつり、と呟かれる声。
「ずっと、真っ暗な所にいた」
「…そうなの?」
「寒いとか腹が減ったとか、何も感じなくて。もしかして死ぬってこういう事かな、なんて思ったよ」
その言葉にうっすらと恐怖を感じ、目の前の身体を抱きしめる。
彼はちゃんと生きていて、ここに居るのだ、と再確認する。
「随分と長い時間だったから、色んな事を考えて、思い出したんだ」
「…何を?」
「小さい頃に、一度俺が姿を消したとかで、神隠しだのなんだのって騒がれてて。両親が随分心配した様子で、戻った俺に駆け寄って抱き締めたんだ…それまで、ただ厳しいだけだったのに」
その言葉に、とうとう堪えていた涙が溢れ出す。
彼は元の世でも決して独りぼっちじゃなかったんだ、と、安堵の涙。
「この野原に初めて来た時、自然と涙が出た。もうその頃には、そんな事忘れてたけど」
「…う、んっ…そうなんだ、ね…!」
しゃくり上げながら必死に答えようとする私に、家康が漸く顔を上げ。
ほんの小さく、笑いかける。