第4章 【徳川家康】ちびっこシンドローム
「竹千代、また遊びに来い、な」
くしゃり、と秀吉さんが竹千代の頭を撫でる。
普段なら絶対嫌がるのに、まだちびっ子だから頭を撫でられるのに抵抗が無いらしい。
秀吉さんも嬉しそうに柔らかいくせっ毛を堪能して…
「ちょっと、いいかげんにしてよ!」
…結局、怒られていた。
昨日と同じ時間くらい、を目指して城を出る。
武将様たちも見送る、と城門まで出てきてくれた。
竹千代は、ほんの少し寂しそうな表情を浮かべている――この年頃の子供なら、泣いたっておかしくないのに。
しかし、竹千代はぎゅ、と両の拳を握ると。
世話になりました、と深々と頭を下げ――そして、信長様をじっと見つめた。
「なんだ、竹千代」
「のぶながさまが、昨日言われてたこと。いっぱい、かんがえました」
はぁ、と緊張を払うように。
小さくため息をついて、でも興奮のままに口早く話し続ける。
「おれは、がんばって。家を再興して、のぶながさまと肩を並べれるように、なります」
信長様はその言葉に口元を緩め、待ってやろう、と返した。
竹千代はその言葉に、本当に嬉しそうに笑うと…更に、話し続ける。
「あと、昨日、千花に聞きました。だいじなひとが、どっかにいってるって」
「…あぁ、そうだな」
「会えるなら言ってやろうと思ってたけど、会えなかったから。泣かすなら、おれが千花のこともらうよって、言っておいてもらえますか」
信長様は、その言葉に、窺うように私の方を見た。
なんだか気恥ずかしくて、もういいです、と言わんばかりに手を振ると。
「相わかった、男の約束だ。必ず違えず、そ奴に伝えるとしよう」
含むような笑いと一緒に、竹千代にそう答えたのだった。