第4章 【徳川家康】ちびっこシンドローム
むすり、といつもの様にへの字に曲がった口。
でも、その目にはじんわりと滲んだ涙。
家康は昔辛い思いを沢山した、と秀吉さんに聞いたことがあった。
その片鱗を見せられた気がして胸がぎゅ、と詰まる。
思わず、また手を伸ばし抱き締めようとする――その時、信長様と目が合った。
何もするな、とその目が言っている気がして、手を引っ込めると。
信長様はゆっくりと、口を開いた――
「竹千代、して、貴様はその運命を受け入れるだけか?」
「…え?」
「抗おうとはせんのか、と問うている」
「…そんな事、かんがえたことも無かったです」
そりゃそうだよね、まだ五歳なんだし――と、私は思ってしまうけれど、きっとこの時代ではそうじゃないのだろう。
膝の上でお行儀よく、震える両の拳を握りしめながら、何かをじっと考える様子の竹千代。
「貴様が諦めれば、全てその様に成るだろう。しかし、諦めなければ、またそれもその様に成るであろうな」
「…はい」
また、竹千代の目に力強い光が戻ってきた。
信長様が、それを見て満足げに、優しげに笑んでいるのを見て…私は、性懲りもなく泣いてしまう。
竹千代が心配そうに、此方を覗き込んでくれるのに今度こそ耐えかねて。
またその身を、ぎゅっと抱きしめる事しか出来ない――