第4章 【徳川家康】ちびっこシンドローム
「あのね、警戒するのも無理はないと思うんだけど…私は竹千代様に危害を…嫌なことをするつもりは、全くないんだよ」
「そんなこと、いきなり言われてしんじられると思うわけ!?ここはどこ!」
ぷるぷると、身を震わせながら。
涙をいっぱいに溜めた目が、しかし力強く、此方を睨み付ける。
その姿は、痛々しくて、でも、健気で…
思わず両手を伸ばし、ぎゅーっと、抱きしめる。
「な、なにすんのっ…!!」
「あのね、貴方のお父さんとお母さんに頼まれて…少しの間、うちでお預かりすることになったの」
「あずか、る…?お前の家って、どこなの」
「安土城っていう、お城だよ。織田信長様の…」
そう言ってから、はっと気付く。
そうか、家康が子供の頃は信長様も子供…
信長様、なんて人は存在していなかったのかも――
「織田家、か。なるほど、わかった。つれて行って」
「…え?あ、うん」
突然聞き分けの良くなった竹千代に少し驚きながら、身を離す。
その目は、先ほどまでの色が失われてしまったかのように、重たく沈んで見える。
そう、まるで、初めて家康と出会った時のような――
「どうしたのさ、いかないの」
「あ、いえいえ。さ、行きましょう」
立ち上がり、手を繋ごうと差し出す。
竹千代は、それを一瞬怪訝な顔で見つめ。
そして私の顔と手を何度か交互に見て――頬を少し赤らめたものの、素直に握り返してくれた。
「あんた、名前。いちど聞いたけど、もう一回教えてくれない」
「はい。千花、ですよ」
「…千花」
まるで確かめるように、覚束ない言い回しで名前を呼ばれて、胸がきゅんとする。
…可愛すぎでは?
リアル家康は心配だけど、確かにそうなんだけど、
「ワームホール様、有難うございますっ…!」
小さくそう呟かずにいられない私を、竹千代がまた怪訝な顔で見上げていた。