第3章 【上杉謙信】ヘーラーの嘆き
佐助くんに部屋に送ってもらって、別れてからも。
ぐるぐると渦巻く思考が止まらなくて、まだ夕刻なのに布団を引っ張り出して突っ伏した。
謙信様が女性に好意を寄せられるのを見るのは、何もこれが初めてな訳じゃない。
例えば針子部屋に来てもらった時だって、皆がきゃーきゃーと黄色い声を上げていた。
うんざりした様な表情の謙信様が面白くて、でも、それは出会った頃のように頑なで冷たいものでは決してなくて。
寧ろこんなに皆から好かれる人と恋仲で誇らしい、なんて思いながら。
モテるんですね、なんて軽口を叩くと、しかし俺にはお前だけだ、なんて甘い言葉が返ってくるのが、幸せで仕方なかった――
なんて子供じみた、気持ちの確かめ方をしていたんだろう。
結局謙信様が自分を好いてくれていると、そんな自惚れがあって成り立つ行為だったのだ、と今更悟る。
本当の嫉妬とはこんなにも苦しくて、こんなにも、自己嫌悪に苛まれるものなんだ――
まるで胎児のように、じくじくと痛み出したお腹を護るように丸まって、目を閉じる。
ゆるゆると、避けようのない眠気に誘われ、そのまま急速に意識が堕ちていくのを感じていた、その時。
音を立てて襖が開け放たれ、驚きに目を開けると。
入って来たのは髪を振り乱した和泉様で、恐ろしいほど見開かれた目が鋭くこちらを睨んでいるのに気づき、狼狽える。
そのまま勢いよく振りかぶられた手に、思わず目を閉じたその時。
がつん、と、乾いた音が響いて、呻く様な声。
恐る恐る目を開けると、平伏す和泉様と、その後ろ。抜き身の刀を構えたままの、謙信様が立っていた。