第3章 【上杉謙信】ヘーラーの嘆き
身体が震えて動けないでいる私に、謙信様が大丈夫か、と声をかけてくれる。
差し出された手にすがり付くと、抑えのきかない涙がぼろぼろと落ちた。
「け、けんしんさまっ…和泉様、は、」
「峰で打ってやっただけだから、大事無い」
その内和泉様のお付きの方が現れて、泣きながらお詫びをされ。
謙信様がもういい、と言うまで頭を床にこすり付け、私に謝ってくれた。
そして、大事そうに和泉様を抱え、部屋を後にされる――
きっと普段から和泉様は慕われているのだろう、と想像がつくそのやり取りに、ほっと息をつく。
謙信様が話されるには、広間に戻ってらした和泉様が、謙信様と夫婦になるために来たのだ、と泣き叫ばれ。
それを断ると突如、風の様な驚くべき速さで、この部屋へと駆け出したのだという。
「悪鬼か、狐の類が憑いているのでは無いかと思うほどだった」
「そうかも、知れません。きっと普段はお優しい方で…私への嫉妬なんかが、そうさせたのでしょうね」
「襲った相手をその様に考えるなど…お前は、人が良すぎる」
「私にも、覚えがありますから…私、和泉様にお会いして、伊勢姫様にも嫉妬してしまいました。今は亡き方になんて、勝てるはずないのに」
勢いでそう告げてしまって、謙信様の驚いた様な表情に恥ずかしくなる。
自分のみっともなさが露見してしまって、たまらない気持ちになる…
思わずまた、止まっていた筈の涙が落ちる。
しかしそれは強引に引き寄せられ、謙信様によって唇で掬われた。