第13章 【豊臣秀吉】一度限りの奇跡
急いで厨へとやって来た私は、番頭に秀吉様のお使いだと頼み込んで、一番良い玉露の葉を出してもらう。
ここで焦りは禁物だ…沸かしたお湯で茶器を温めた後、少し覚めたお湯を茶葉にそっとかける。
そうして九十まで数え、茶葉が入り込まないよう慎重に茶器に注ぎ入れる…
残りは茶漉で葉を丁寧に取り除き、美しい急須に移した。
先輩に昔教えて貰った、規則通りの淹れ方だ。
色も綺麗に出ているし、恐らく不味くは無い、はず…
また褒めて頂けるだろうか、と打算半分。
お話し合いが上手くいくといいな、と真心半分で、しずしずとお部屋へお茶を運ぶ。
もうお客様がいらしているのだろうか、また閉まっている襖の前でふう、と一息。
そして失礼します、と中に向かいお声をかける。
「お茶をお持ち致しまし、た…」