第13章 【豊臣秀吉】一度限りの奇跡
急いで足桶と手拭いを片付け、その足で厨に向かう。
次々と出てくる朝餉の御膳を一つ持ち、女中達が列を成した中に紛れ込む――
「あ、あれ?私の持つお膳が足りません!」
「そんな訳ないだろう、ちゃんと数の分出したぞ!!」
同僚の困り声にごめんね、と内心舌を出しながら。
行列に合わせしずしずと進む。
広間に足を踏み入れるや否や、信長様の前に御膳が置かれ、それなら次は…!
…と、思いきや。
先に入っていた先輩が、既に秀吉様の前に控えていた。
流石にそれを押しのける訳には行かない…せめて視界に入れればとその向かい、光秀様の前に持っていた御膳を置いた。
「朝餉を失礼致します」
「…残念だったな?」
光秀様のほんの小さな囁きに、ばっと顔を上げるも。
いつも通りの涼やかな笑みがあるだけ…
気のせいだっただろうか?
お皿の配置をぱぱっと手直しして。
次に機会があるとすれば、お茶のおかわりをおつぎする時だろうと…光秀様へのお辞儀もそこそこに、厨へと足早に戻るのだった。