第13章 【豊臣秀吉】一度限りの奇跡
そうしてやっと洗濯物を干し終え、部屋に戻った時には折角引いた紅は捩れ、白粉も流れてしまっていた。
とは言え、じっとしてはいられないのだ…
汗をがっと拭い、手早く化粧を直し。
私はまた、階段を足早に駆け下りる。
水を張った桶と、濡らして固く絞った手拭いを用意して、玄関口に座して待つ。
座ってるだけで暑い、けれど汗など気合で止めてみせよう…!
…それから、半刻ほど経ったろうか。
「秀吉様、お帰りなさいませ」
玄関の一番手前を陣取った私は、秀吉様に手拭いと足桶を差し出す事に見事成功した。
陰に隠れて悔しがる女中達の姿が目に浮かぶよう…でも、私は気付いている。
「あぁ、有難う。
さぁ三成、朝餉に向かうぞ。
信長様をお待たせしてはならないからな」
「はいっ、畏まりました!」
私に向けられる笑顔は、取り囲む町娘に向けられるそれと変わらないのだと。
秀吉様はとてもお優しい。
向けられる好意を無下にはなさらない、なんとも残酷だ…