第12章 【徳川家康】Vampirism(ヴァンピリズム)
「…っ、う、」
そして、その時はついに訪れた。
気に病むだろうと、なるべく声を抑えようと試みたけれど…痛みを感じたのは、突き破るその一瞬だけ。
血を吸われていると言うだけあって、ふわふわと意識が浮かんで行くような、目の前がちかちかと明滅するような、不思議な感覚。
しかし決して不快じゃなく、むしろ…
至近距離で、千花の必死めいた息遣いと、時折空気を求める喘ぎ声が聞こえてきて…それはそれで、やけに唆られる。
霞んでいく視界は、死に似た感覚なのだろうか、なんて馬鹿なことを考える――
「は、ふっ、いえや、すっ…」
それからどのくらい、そうしていただろうか。
千花は漸く、胸元から顔を上げた。
ぺろり、といつもより紅く染まった舌が、口端に滲んだ俺の血を拭う。
その光景は酷く倒錯的なのに、扇情的で…
貧血でぼやけていく視界の中、さっきあんなに意識した死が急に怖くなり。
焦ったように伸ばされた千花の手の温もりに安堵を覚えながら、俺はもう一度、固く目を閉じた――