第12章 【徳川家康】Vampirism(ヴァンピリズム)
「…や…いえやすっ…!!」
意識がふわふわと浮き沈みする中で、千花の泣き声が聞こえる。
こんな事を言ったら引かれるかも知れないけれど、あの子が泣きながら俺の名前を呼ぶのが、昔から好きだ。
勿論、笑顔には替えられないけれど…
お互いがずっと特別で、かけがえがない。
隣にいるのが当たり前だと、何故か物心ついた時からそう思っていた。
だから、こうなるのは当然の帰結。
たとえ俺がタダの餌だったとしても、他の奴には譲れない――
「家康っ…」
不安と後悔が滲む、小さな涙声に俺は漸く薄目を開けた。
目の前には涙をいっぱいに貯めた千花の顔。
安心させたくて無理やりに微笑むと、とうとう大粒の涙を零し、それでもまるで花が綻ぶように笑う。
ゆっくりと身を起こしてみる…一瞬ぐらり、と、貧血のような目眩を感じたけれどそれっきりだった。
腕を広げてやると、待っていたと言わんばかりに飛び込んでくる身体。そして涙でぐちょぐちょに濡れた、千花の顔が胸元に押し当てられた。