第12章 【徳川家康】Vampirism(ヴァンピリズム)
「やっぱり…気持ち悪いし、怖いよね」
千花が発した声に、俺は俯いていた顔を上げた。
どうやら、黙ったままが良くなかったようで。
悲しげに伏せられたまつ毛の先に、溜まっている涙が見える。
「ヴァンパイア、なんて…知られたからには、一緒に居れないよね」
とうとうまた、震えだした声に。
今度こそ辛抱たまらなくなって、千花の腕を掴み、体を無理やり引き寄せ抱きしめる。
さっきあんなに強く掴んだ手首に、痕はほんの少しも残っていなくて…それも、ヴァンパイアたる所以だろうか?
また確認しておかないと、この子は本当に抜けているんだから、なんて考える――
「家康!!?あ、あのっ…!!」
腕の中でじたばたと暴れる体を、一際きつく抱きしめて。
諦めがついたのか静かになったところで、落ち着かせるように髪を撫でる。
「千花、確かに…驚いたけれど」
「う、うん…」
「嫌いになることなんて、絶対にない」
「…う、ん」
俺の背中に、おずおずと腕が回される。
暫くそのぬくもりを堪能してから、ゆっくりと身を離した。
わざとなのかと疑いたくなる程、恐ろしく切なげな眼差しを向けられて、ぞくり、と背が粟立つ。
泣き濡れた目からは、また今にも涙が零れ落ちそうで。
真っ赤に染まった目尻を親指でなぞってやると、びくり、と身を震わせながら目を閉じた…そんな振る舞いをされると、虐めたくなるから困るんだけれど、と内心独りごちる。
「…むしろ。期待した」
「き、たい…?」
「記念すべき初めて、が、あんたから襲われて始まるのかと」
「…なっ、はじ、めて…!!」
意味が伝わったようで、顔全体を真っ赤に染め。
俯く千花は、もうすっかりいつも通りに見える…が、しかし。
「という訳だから…どうぞ」
「…えっ」
「吸いたいんでしょ、俺の血」