第2章 【徳川家康】God BLESS you
水音と嬌声に掻き消されそうな程の、俺の小さな呟きを。千花は律儀に拾い上げ、必死に聞こうとまた身を捻る。健気な姿と情欲に滲んだ目が不釣り合いだな、と思いながら、しかし指の動きは止めてやらない。
「でも、例え神や仏にすら、まして他の奴になんて、俺達の行く末は決めさせたくない。千花の事、愛してるから…ほら、達していいよ」
「…っい、いえやすっ、ん、やぁー…!!」
俺の重たい愛の告白に感極まったのか、はたまた激しさを増した動きに翻弄されているのか、千花は一際大きな声を上げ、背を反らす。開いた唇が無闇に艶めかしくて、噛み付くように口付け、口内から侵す。
思えば、こんな口付けもしていなかった。どれだけ遠慮していたのだろう、と自嘲する…いや、身体触れ合わずとも、心が満たされていたんだ、と思い直す――
口付けの間で、千花の叫びめいた艶声が爆ぜる。そして、今までで一番大きく身体を震わせた後、ずるり、と力がその身から抜けた。急速に散っていく熱、顔をのぞきこんで見ると先程までとは一転、まるで幼子の様に安らかな寝顔。頬の涙の跡だけが、その証の様に残る。
その身をかかえたまま、ぼすっと音を立てて褥に転がった。布団の冷えた部分を心地よく感じる程、自分も熱を帯びていると気付く。こういう時は後始末くらいしてやるべきなんだろうけれど、疲れ切って動けそうにない。
「いえやすー…」
「…ん、何」
まさか、目覚めるとは――呼ばれた声に驚き反応してみるが、その返事は無く。寝言だったと気付いた時には、どうしようもなく胸中にじわり、と満ちる幸福感。
「あんた、ほんとに俺をどうしたいの…ばか」
身体の奥底で燻り続ける炎を抑え込むように、一層強く千花の身体を抱え、無理やり目を閉じる。存外簡単に揺らぎ出す意識に逆らう事も無く、俺もすぐに眠りへと落ちていった。