第2章 【徳川家康】God BLESS you
次の日の朝。
早くに出立すると聞いていた秀秋の為、気怠い身体に鞭打って褥を抜ける。昨日の出来事が幻だったかのように、千花はあどけなく…いや、だらしない寝顔で未だ夢の中だ。
起こさぬ様、なるべく静かに身支度を整え城門へ出る。すっかり準備の整った秀秋と山口が、馬に跨っていた。
「家康殿!昨日は如何でしたか」
弾ける様な笑顔と不躾な物言いに、思わず頭を抑え顔を背ける。
「馬に乗って無かったら、間違いなく切り伏せてるよ、お前…別に、何も無い」
「…はぁ!?何も無い、とは!?」
「文字通り、それ以上の意味は無いけど」
「何ですかそれ、勿体無い!俺に、千花様を下さいよ!」
「…それは駄目。千花は、俺のだから」
秀秋の堪える様な笑い声が聞こえ、じろり、と睨むと。バツの悪そうな、しかし真っ直ぐ此方を捉える視線とかち合う。あぁ、また彼奴は自身の虜になる男を増やしてしまったのだ、と悟る――しかも、本人の預かり知らぬ所でだから質が悪い。
「…また、会わせて下さいね」
「千花が望むなら、考えなくもないよ。ほら、もう行きな」
素っ気ないなー!と叫びながら、漸くのろのろと馬を進めだした秀秋と、申し訳なさげに頭を下げた後それに付き従う山口を暫く見送って、踵を返す。起きた時に一人だと寂しがるだろうな、なんて思うと、自然に歩調が速まる自分に苦笑しながら。
暖かい部屋に漸く戻って、その姿が見えず一瞬狼狽するも。すぐに何処に居るかを察し、思わず笑いながら近付く…そして、褥のど真ん中に堆く出来た、敷布団の塊の隣に座った。ぽん、とその頂点を叩くとびくり、と山が震える。
「何してんの。体調は?気分は?悪くない?」
「…その辺は、大丈夫…だけど、」
「だけど?」
「恥ずかしくて、合わす顔が無い…うぅ…」
呻きながら、しおしおと心做しか小さくなった布団の塊。可愛らしくて虐めたくなるけれど、此処で対応を誤っては傷付けかねないな、と慎重になる。一言一言、言葉を選んでは発していく――
「俺はさ、千花の事を甘やかしたくて、仕方なくて」
返事は返ってこない、代わりに布団の間にちらり、と隙間が出来た。恐らく俺の声を拾おうとしているのだろうと踏んで、言葉を続ける事にする。