第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「…ますたーど…で、しょ」
たくみは俺の言葉に、ぱちぱちと忙しく目を瞬かせ。
そして、要領を得た、とばかりに小さく手を叩く。
同時に心底嬉しいのだと、伝わってくるような満面の笑みを浮かべた。
「私としたことがっ…
やだなぁ家康様、わーさーびっ!」
「山椒」
「わさびっ」
「生姜」
「のんのん、わぁさびぃっ」
「…それも違わない?大蒜」
「もー!わさび、だらーっ」
二人で見つめ合い、にらみ合い。
そして、どちらとも無く吹き出す。
「我ながら、このお決まりのやりとり…
楽しすぎるっ」
「俺の気持ち、分かった?
知らずの内に、ついつい躍起になるんだよ」
「よーく、身にしみましたっ。
…これからもずっと、こんな馬鹿みたいなやり取りでも、相手してくれますか?」
急にしおらしくなって、おずおずとした瞳で見つめてくる。
俺をどうしたいんだ、なんて本気で悩んでしまいそうな程振り回されているけど、気分は上々だから困る。
「春夏秋冬、昼夜を問わず、どうぞ」
「わぁ、大盤振る舞い」
「あんたにだけだよ」
「ふふ、愛されてるぅ。
ね、私も好きですよ」