第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「たくみ」
差し込んでくる朝日の中、しどけなく衣を羽織っただけのたくみがゆっくりと振り向いた。
縁側に立ち、庭を眺めていたらしい。
自分の愛する光景を、気に入ってもらえたのはとても嬉しい、けれど…
そろそろ掃除の奴が来てもおかしくない、と、その無頓着な装いにこちらは気が気じゃない。
柔らかく、儚げな、恐ろしく穏やかな表情で、静々とこちらに戻ってきたその腕を掴み、手繰り寄せる。
「ちょっと、見られたらどうするの」
「こんな時間から、誰もいませんよ?」
「分からないでしょ。あんたみたいに早起きで、勤勉な輩が居るかも知れない」
その時、がさがさと。
茂みを揺するような音に、二人してびくり、と庭先に視線を移す――
つぶらな瞳が、こちらをじっと捉えているのに気づき、また二人して安堵の息をつく。
「…なんだ、お前か」
「おお、わさびー!ね、家康様!
この子も勿論、一緒に行くらぁ?」