第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
ぐりぐりとした瞳が、俺の答えを待ち望むように細められた。
どうしてだか、素直になれない自分の心根を分かって手玉にとるような。
彼女に一矢報いたい、そんな意地の悪い思いにとらわれる。
「…好きなんて、ものじゃない」
「…え、」
「何その顔、まだ悲しくなる?…馬鹿だね」
正しくは、馬鹿みたいに可愛いんだけど、と心の中で付け足して。
やっと通じた、と…過ぎた季節を思い返しながら、万感の思いをぶつけてやる心意気でゆっくりと口を開く。
「俺は、愛してるよ…たくみ」
そしてそんな小さな俺の企みすら、お見通しだと言わんばかりに。
たくみはふわり、と、優しく微笑んでくれるのだった。