第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
震える心を見透かす、鋭く深い目を避けるように。
家康様の胸もとにぐり、と額を押し付ける。
私の髪にすっと指を差し入れ、弄ぶ家康様の胸の音が随分と速い…自分だけがそうではないのだ、と妙な安堵を覚える。
「俺が選んだから、こうなってるんだ。
まぁ…不安になる気持ち、分からなくもないけど」
弱い奴は嫌いだ、と言っていたのに――弱くても、受け止めてくれるのですね。
そう言ったらまた拗ねるだろうから、心の中で呟くに留め、嬉しくてまた笑ってしまう。
「俺だって、優しくもないし、権力もない…
…でも、あんたの事は、好きだよ。
それだけは、絶対、揺るぎない」
たくみが、俺の胸元に暫く埋めていた顔を、漸く上げた。
目尻は紅く染まったままだけれど、満面の笑みで。
「よーく、分かりました。
家康様のその冷たい物言いも、つんけんした態度も、罵倒だってぜーんぶ、愛ゆえなのですね」
「…急に、随分と前向きだね」
「深ーく底知れない、愛を身をもって感じられましたので。
お誉めに預かり光栄…らぁ?
…お?」