第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「…あの、一個だけ。
決して家康様の気持ちを疑ってる訳では無いのですけど、質問、良いですか」
「…何?」
「どうして、私なのですか?
私、若くない…見た目より年増、だし。
身体も傷だらけですし。
あの娘たちみたいに、きらきら女の子、してません」
彼の、何にでも応えてくれる優しさにかまけて。
先程見た光景を頭の隅にこびりつけたまま…つい弱音を吐いてみたけれど、家康様は変わらず優しげな表情のままでいる。
「…随分と自分を卑下するんだね。
意外だった」
「…幻滅、されますか?」
「いや?人間味があっていいんじゃない。俺はどうも、あんたの良い所ばかり目が行くから…
惚れた弱みと言うやつだね」
良い意味で鳥肌が立つ程、甘やかな言葉に。
その先を期待するけれど、家康様は先程とは一変した、意地の悪い笑みを浮かべた。
「何処が、なんて。
挙げ連ねたらキリがないから、その都度教えてあげるよ。
…好きだって言ってる、それだけじゃ駄目なの」
「…いいえ。それが全て、そうですよね。
すみません、興醒めな事を言いました。
もう、忘れて貰って良いですからっ」
「…何とも、見くびられてるみたいだね」