第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「なーっ…!?」
この雰囲気にそぐわない、一刀両断の貶し文句に。
俯いていた顔を勢いよくばっと上げる。
上げた先にあった、これまた言葉にそぐわない、優しい表情に面食らいながら。
何かしら言い返してやりたくて言葉を探す、その前に家康様がゆっくり口を開く。
「あんたが辛い時も、痛い時も、怖い時も、寂しい時だって、この安土で乗り越えてきたのを俺は知ってる」
暖かい目に魅入られて、開け呆けたままになっていた口に力を込め、閉じる。
そうでもしないと、やわやわと震える唇から、どんな泣き言が飛び出すか自分でも想像がつかない。
いつだってそうして見てくれていたのだ、と。
その視線に、気付いた時から…いや、気付くより前かも知れない。
私が家康様の事を、好きだったのは。
「此処でもがき苦しみながら、それでも必死に生きてる、たくみが好きだ、だから。
俺はあんたの大事な居場所を、奪いたいわけじゃない。
新しく、与えてやりたいって…
ただ、それだけだよ」