第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「家康様、流石。察しが良い」
「こんな事で褒められても、嬉しくないんだけど?」
「私は嬉しいですよー、よく見てもらってるんだな、ってねっ」
飄々とそう答え、たくみは微笑む…いや、逆に泣きそうなのを我慢しているようにも見えた。
そんな顔をさせたくて、部屋を訪ねてきた訳じゃない…此処に連れてきた訳じゃ無いのに、と。
まるで言い訳めいた、情けない言葉を飲み込む。
そんな俺の葛藤を見透かすように、たくみはまた無理矢理に笑うものだから。
なんとかその表情を、変えてやりたい――
「当然。
…好いた女の子の事なんだから」
そんな一心で放った言葉は、我ながら驚くほど甘やかで。
たくみも、驚きに目を見開く。
「家康様…驚きの素直さ」
「一度好きだと言えば開き直ったんだろうね。
そうなると俺は強いよ」
「…では、私も素直にならないといけません」
たくみはこほん、とわざとらしい咳払いを一つすると、姿勢を正した。
「私…好きな人や物が、多すぎるのですよね。
そりゃもう、家康様に見放されてしまいそうだらー!なんて心配になるくらい」
「…うん。知ってる」