第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
駆け込んだ部屋で、後ろ手に襖をぴしゃり、と閉め。
そこまでして漸く――
「…わたし、何やってんだら」
自分の振る舞いの意味不明さに気付き、かーっとなった頭が徐々に冷えていく。
そして私の困惑より、こんな態度を取られた家康様の方が余程だろう、とも。
引き返してちゃんとおかえりなさい、と言おうか、でも――
その先に何が待ち受けているのか、想像もつかないのが恐ろしい。
面と向かって何を話せばいいのかも分からない、けど。
「このままダラダラしてたら…ジリ貧一直線、間違いないっ」
そんなのって、自分らしくない。
よーし、と両頬をはたいて気合を入れ。
いざ、と先程よりも勢いよく襖を開け、飛び出す――
「うわっ」
「いだっ」
襖を開けた先、強かに鼻をぶつけ目眩がする。
そんな私が後ろにつんのめるのを、倒れないように掴まえてくれる力強い手。
壁のあるはずのない場所だ。
壁はうわっ、なんて言わない。
壁が転ぶのを、助けてくれるはずがない…
恐る恐る目を開け、見上げる。
「…何してんの、たくみ。大丈夫?」