第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
しかたねぇなぁ、その低く優しい声音に、擽られる様に。
やわやわと口元が解けていく。
「太郎様、何かを手に入れるのに」
「…うん」
「何かを手に入れるのに、何かを捨てないといけないのは分かってるんですよ。
でも、それが選べない」
重みが違う訳じゃない。
種類が違うんだもの。
どっちが大事、なんて順序をつけることが出来ない――
またすんすんと鼻を啜る私に、太郎様の苦笑混じりの声が降ってくる。
「選べない位、どっちも魅力的って事だな」
「あぁ、うん。そうなんですよ、ね」
「なら、うーんと悩めばいい。
そして、分かるやつに助言を求めるのもいいかもしれないな」
「…じょげ、ん」
「たくみはいつも自分で抱え込むからな。
たまには誰かに頼っても、誰かに手を引いて貰っても、いいんじゃないかと俺は思う」
とんとん、と背をさすられ。
しゃくり上げる様な浅い呼吸が、段々と安らかな物になっていく。
「さっきも言ったが…
俺達はお前の家族だ、何処に居ても、何をしていても、それは変わらない。
…たくみが悔いのない選択を出来ることを、心から願っているからな」