第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「たくみ、部屋は何処だ!?」
「うえーんたろうさまーっっ」
焦った太郎様に引き摺られる様に、目をぐじぐじと擦りながら歩く。
すれ違う女中さんたちが、何事かと私達を見やる度に、太郎様が外用のふんわり笑顔で会釈するのを見て…思わず、笑ってしまうと。
「いでっ」
「こら、笑ってないでさっさと案内しろ」
痛く、しかし優しく小突かれ、違う意味で潤む目を擦りながら、漸く自室へとたどり着く。
「で?泣いたり笑ったり、いつにも増して忙しそうなのはどういう訳なんだ?
…言えることが無いなら、無理しなくてもいいが」
心配そうな視線に、胸がぎゅーっと締め付けられる。
「…うーん。私にも、よく分からないのです」
「分からない、ってのは?」
「…その前に、少々疲れたので。
パワーチャージをばっ」
「ん?…あぁ。ぱわーちゃーじ、な」
太郎様は、突然胸元に飛び込んだ私を難なく受け止め。
ぐりぐりと幼子の様に額を擦り付ける私の、後ろ髪を優しく梳いてくれる。
「どうだ?ちゃーじ、できたか」
「…んん、もうちょっと、お願いします」
「…仕方ねぇなぁ」