第2章 【徳川家康】God BLESS you
す、と試すように、秀秋が再度千花の手を取った。そこには何の刺激も生まれないようで、千花は声を上げることもなく、只々困り果てた様な、潤みきった目をこちらに向けた。
煽られるように、腰の短刀に手をやる。山口ががはっと息を飲み、素早く秀秋との間に立ちはだかった。その姿にはぁ、と自らを落ち着けるように深く息を吐き。秀秋を見やると、面白げに細められた目が合う。
「その首がまだ繋がっている事を、幸運に思うんだね…二度と千花の前に姿を見せるな、今夜の事も忘れろ、先程の顔も声も全部!」
一息に言い放ち、千花の身体を抱き上げる。驚きに目を見開いた千花の口から、隠しきれていない熱ばんだ吐息が零れた。ち、と舌打ちをして、足早にその部屋を後にする。
階段を上り、千花の部屋へ――途中出会った女中頭…随分顔なじみになってしまった…鶴に、人払いをする様言い渡し。焦る気持ちそのままに、足で襖を開け、一先ず褥に千花の身体を下ろした。
襖をぴしゃり、と音を立てて閉め、戻ると。千花がふるふると弱々しく震えながら、涙を流しているのに気付く。
「…どうしたの。身体、辛い?」
「ちがっ…それも、あるけど、ごめんなさい…また、私、心配かけてっ」
「別に、それはいいよ」
「でも…家康、苛立ってるでしょ…?」
濡れたまつ毛が、火照った頬が、艶めいて見えて。薬のせいだと分かっていても、ぐずぐずと己の内の弱さが疼く。それを見せたくなくて、大きく頭を振り、千花の手を取る。先程秀秋が同じ事をしても、何も言わなかった千花はしかし、小さく声を上げ。そしてすぐに、恥ずかしそうに口を噤んだ。
「確かに…苛立ってる。でもそれは、あんたをこんな目に合わせた秀秋と…それを許してしまった、自分自身に、だから」
おずおずと、不安げに視線を合わせてくる千花。そういう姿が、目が、俺を煽るのだと、いい加減自覚すればいいのに――