第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「どうした、たくみ?」
「ん、何が…?」
「何かあった、って顔してる。
…今は、何があったか言えないって顔になったな」
「…わぁ、太郎様、エスパーだったのですねえ」
「えすぱぁ?」
太郎様の鋭い視線に、穴が開きそうな心地で。
見事に言い当てられた心根に、苦笑する。
「その通り、何かあったのです。
でも、自分で何とかしなきゃって張り切ってるので…また何かあったら聞いてくださいね、太郎様」
「…そうか」
徐ろに、太郎様の大きな手が伸びてきて。
わしゃわしゃと、まるで飼い犬にするそれの様に、乱暴に撫でられる…しかし、心地よい程度の強さで。
「お前は無理しがちだから、心配だけど」
「ふふ、いつもありがとうございますっ」
「…だが同時に、信頼もしてるんだ。
覚えておいてくれ。
何処にいても、どんな姿でも、俺は、俺達はお前の家族だからなっ」
優しげな目を伏せて、そう言った太郎様は。
何も返さない私の表情を伺うように顔を上げ…そして、ぎょっと驚いた様に目を剥いた。
「なんだおい、どうした!?」
「…なんなんですかー、ほんとにえすぱーなんじゃー…!!ううーっ、たろうさまーっ!!」