第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
障子戸の向こうから聞こえてくる笑い声に、何処かほっと胸をなで下ろす様な気持ちで、踵を返す。
無理やりに連れてきて、喧嘩別れの様になってしまった昨晩のことを思い出し、部屋まで来てみたものの。
…何を言えば良いか、纏まっている訳でもなかったから。
「…癪だけど、彼奴等に感謝しないとね」
城の中では、まだたくみを男だと思っている人間も多い。
それが彼女にとって毒なのか薬なのか、自分では判断がつかない、けれど…
たくみの笑い声が、少し離れた今でも聞こえてくる。この御殿にいる内は、あの三人を纏めて世話役につけてきっと正解だったのだろう、と考えながら。
衝動のままの、此度の自分の行いを振り返る…
…だからと言って、引き返す事も、諦める事も出来そうにない。
自分でも、気持ちの落ちつけ所が分からなくて、悶々と。
未だ此処にたくみが留まっているという事実に、縋り付いて立っているのだと、自覚している――