第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「わぁ、まさに思惑通りですねぇ」
「今日は特別天気が良いから、見慣れてる私たちも見惚れてしまいそう」
「…たくみ様?おーい」
「…ふぁっ。
飛んでた。…予想の範疇を、超えてた」
戸の空いた先。
先ほど歩いた庭の池に流れ込む、龍門瀑を眼前に臨む位置に、私の部屋があった事に気付く。
庭先の作り付けの滝ながら、ざあざあと音を立てる程の水量が、池に落ちる度に虹を作る。
南に昇りつつある日の光が、水に反射して煌めく上に、架かる虹――
「そうでしょう、たくみ様。
ふふ、家康様はご明察ですねぇ」
「絶対喜ぶから、と…この部屋を客間にする様に、家康様が強く言われていたのですよ」
「ここは、家康様が大事なお客様を持て成す為のお部屋なんです。
だから私たちも、気合入れてお迎えしないとって!
すっごく張り切ってたんですよー、ねー!」
昨日のやり取りを、思い返しながら。
…誘拐だって、言ったくせに。
持て成してくれるつもり満々だったのですね、なんて――
言うときっと、照れ隠しにむくれるんだろうと。
想像するだけでじんわりと、心が暖かくなる。
「…うん。嬉しい。悔しいくらい、喜んでる」
「でしょうねぇ」
「たくみ様、顔がにやけちゃってますもんねー!」
「その様にお喜び頂けると…私共まで、嬉しくなります!」