第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「どうぞ、たくみ様」
「…あれ?私の部屋で食べるの?」
「ええ、家康様は今日はその方がいいだろう、って仰ったので」
「…そ、そうくるかっ」
てっきりお城のように皆で顔を突き合わせて食事をとるものだと思っていたら、自室に配膳をされて面食らう。
え?なんです?と、呟きを漏らさず三者三様に聞き返され。
何でもないよ、とまずは汁物に手に取った。
顔を合わせたら、何を言ってやるものか――
そんな風に意気込んでいたのが、しゅるっと萎むのを感じながら。
椀に口をつけてみると、ふんわりと出汁の香りが漂う、でも口に入れるとがっつりと赤味噌の効いた、塩分濃いめの味噌汁。
空きっ腹に染み入って、食欲を唆られる。
――そう言えば、
「…辛くない、んだ」
「…あぁ、お味付けですか?」
「うん。
あれだけもっさもっさと唐辛子を入れてるからさ…自分の家ではどんな味付けだら?って不安になってたんだよね」
唐辛子が沈殿するレベルを想像していたから、普通のお味に逆に驚いていると。
またけらけらと三人が笑い出す。
「その話、何度かこの屋敷でも出ましたー」
「料理番も何度か、家康様に聞いてたよねぇ。こちらで殿の好みの味付けに致します!とかって」
「…でも、家康様が断られたんですよ。
自分の味付けは、自分の我儘だから。あんたの手を煩わせる程の事じゃない、って」
「皆が俺に合わせる必要、無いでしょー!」
「…やっぱ似てないねぇ、ちぃちゃん」