第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「誘拐!なんて!!」
声に合わせ、枕に正拳突きを入れる。
ぐにぐにと拳に応じて、枕が痛々しく形を変える。
「私の気持ちを!無視したままでっ!
だいたい!当の家康様は何を考えてるんだか!
言わないしーっ!」
先ほどの家康様の目に、初めて出会った日、風体だけで弱っちいと決めつけられた時を思い出した。
優しくされて、舞い上がって、ふわふわと。
懐いていたのに、しっぺ返しをくらった気分…
そこで考えて、ぽすん、と。
電池が切れたように、また枕と仲直りするように、頬をくっつけて布団に一緒にダイブした。
気持ちと向き合え、なんて偉そうに言うけど貴方はどうなの――
自分の気持ちなら、自分が一番分かっているに決まっている。
そして、その気持ちから逃げ回っている事も自覚している。
向き合わないと後悔するのも、分かってる、けど――
「どっちを選んでも、後悔しそうなんだよ…」
ぐずり、と鼻をすする。
こういう時は寝てしまうのが一番だ、と無理矢理に目を閉じる。
あー、蕎麦のいい香り。
そう言えばお腹も空いていたけど、疲れた頭と身体はすぐにゆるゆると沈んでいく。
誘拐、という割に見張りも何もつけられていないと、静まり返った周りの気配から察する…
それでも。
ここから抜け出してしまえ、なんて気にもならないから、余計に困るのだ――