第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
非難めいた目を避ける様に、踵を返し。
また一歩、奥の自室へと歩き出すけれど…たくみが着いてくる様子はない。
「信長さんの許可なら、取ってあるから安心しなよ」
「許可…出たのですか」
「…まぁ、ね」
半ば無理やりだけど、という言葉は胸にしまい、肯定の言葉だけを返す。
彼女は酷く複雑そうな表情を浮かべた。
「誘拐犯の目的は、何なのですか。
私、お金なんか持ってないですよ。
肉が無いから、食べても美味しくないですよ」
「…味はどうだろうね。
信長様が、越後の上杉と同盟を結ぼうと画策してるのは知ってるでしょ。
段々その話も煮詰まりつつある。
今暫くで、同盟は締結される運びって所、なんだけど」
柄にもなく、緊張している…口内がやたらと乾いていることに気付き、ごくり、と唾を飲んだ喉が鳴る。
同じ様に緊張をもって、俺の話を聞いている…そんなびりびりとした空気の中、また口を開く。
「それが終わったら、俺は東の守護の為…駿府の城を建て直して戻るつもり」
「…え、」
ほんの小さく、驚きめいた声が上がった。
そんな事にすら、背中を押されるように。
すらすらと話せる自分は、なんとも単純で、馬鹿らしい…
「たくみ…あんたを、連れて行きたいんだ」