第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
「…行先って、ここだったんですね」
「そう、此処…お気に召さなかった?」
「いえ、そんな事は全く!
行先があったってだけで、そもそも予想外だら…
んー、でも、どうして…?」
俺の意図が掴めず、探る様に見つめてくる視線を他所に。
二度手を打つと、出迎えた女中が三人、整列して前に揃った。
「たくみ。
この三人は、俺よりもうちの事を知ってる。
何でも、聞くといい」
「…は、い…?」
たくみの首が、疑問で傾いだままなのも無理はなかった。
朝は秀吉さんとの組み手、昼からは三成との兵法書の読み合わせ…続いた鍛錬が漸く終わり、部屋に戻った所に俺が現れ。
散歩にでも、と連れ出された挙句――突然、俺の御殿に連れてこられたのだから。
「左から順に、ちぃ、ぬの、ひろ」
「は、はぁ…宜しくお願い、します…?」
「たくみ様、何なりとお申し付け下さい」
三人の中で一番しっかりとしたひろが、頭を下げた横で。
おざなりなお辞儀を済ませただけで、興味津々と言った表情でちぃとぬのがたくみと俺の顔を交互に見ている。
「ほら。
ちぃちゃん、ぬのちゃんも挨拶しないと」
「あ、はーい!うっかり見とれてました…たくみ様、宜しくお願い致しますね」
「お願い致します…
家康様が、女の子をお連れになるなんてー!故郷の母に報告せねばなりません…!!」
「あ、はは…?」
「…ちょっと。余計な事はいいから…
もう下がってよし」
三人はくすくすと、年頃の娘らしく小さく声を上げ笑うと。
今度こそきちんと深くお辞儀をして、踵を返し奥へと去っていった。
風のように慌ただしく、かしましい三人を見送り。
ふぅ、とため息をつき歩き出すと、たくみも俺の後ろを着いてくる。