第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
城下をぐるり、と一周するように。
歩を進める度にかけられる言葉をたくみは丁寧に拾い上げ、声を返す。
「たくみちゃん、今日はお茶飲んでかないのかい」
「おじさん、ありがとっ!
今は見ての通り、家康様と逢瀬中ですから!
また近い内に来るらー!」
「たくみちゃん!今日は家康様とご一緒なんだね」
「そうなんだー。
逢瀬中だから、また今度ゆっくり話そうね!」
…今日は、って。
前は誰とお茶をしに来たんだか、そんな言葉が喉仏の辺りまでせり上がってきて…でも、寸での所で飲み込んだ。
たくみがいちいち逢瀬だ、と付け足す度に、溜飲を下げ。
裏腹に、誰と居てもそう言ってるんじゃないかというちっぽけな猜疑心が沸き上がる、その繰り返し――
「家康様」
そんなしょうもない俺の嘆きを、全て見透かしているかのように。
たくみは少し困ったような笑顔を浮かべ、繋いだ手をぶんぶんと、歩みに合わせ振るう。
「どうしたの」
「えっと。ただ歩いてるだけで、楽しんで貰えてるのかな、と心配になりました…
…折角の、逢瀬なのに」
「ちょっと…誘ったのは、俺なんだけど?それは暗に、俺に文句付けてるわけ?」
「ああっ!しまった、そういう訳ではっ」
あたふたと焦った様に、それでも笑みを深めた彼女に、俺はまた気を良くして。
答えならこの手から伝わってくれるだろう、と力を込め、また前を向いて歩き出す。
そうこうしている内に、景色はよく見知った場所へと変わり。
たくみは行先に察しがついたのか、きょろきょろと辺りを見回しながらも、不思議そうな表情を浮かべている――