第8章 【明智光秀】拈華微笑
その笑顔に、ササクレだっていた心が洗われていく。
嘘偽りの多い世の中、人を疑い、疑われる事が生業の様な俺が。
唯一裏切りたくない、裏切られたくないと思える相手――
「でも、今日は偶然の重なる日でしたね!」
「…ん、何かあったか」
聞き返す俺に、千花がきょとん、とした表情で。
事もなげに、言い返す――
「だって、今日は…行く先々で、光秀さんの影を見ましたよ?」
城の裏口で、
書庫で、
天主では報告書を通じて、
家康の御殿では女中からの添え口で…
上げ連ねていく千花に、何故か驚いているのを悟られるのは気恥ずかしくて、押し隠す。
「でも、甘味屋さんの時は気付けませんでした…ほんとに、何処で見てらしたんですか?」
ふふ、と笑う千花をじっと見つめると。
私の顔に何か、と微笑みながら返され。
もしかしたら一瞬抱えた焦りすら、その手の内だったのかと。
そんなとんでもない考えが、脳裏を過ぎる――
「…そう言えば、家康の所へは何をしに?」
訳もなく焦る中、ふと思いつき問い掛けると。
そうでした、と千花も思い出した様に手を打った。
「そうでした、家康の所へは…最近光秀さんが物憂げだから、家康に漢方を煎じて貰うといい、と信長様から助言を頂いたんです。
煎じる薬草の内容まで指定して、書いて下さったんですよ!
ほら、これです」
薬包紙に包まれた一服の漢方と、信長様の書を渡され。
何々、とその内容に目を通す…