第8章 【明智光秀】拈華微笑
嬉しい、と…一緒に本を読む、そんな些細な事に破顔して喜ぶ千花。
ほんの一瞬でもその行いに腹を立てた己に、恥じ入るように。
今度は自分から、と切り出す――
「今日、町角の甘味屋に居ただろう」
「え?あぁ、ご覧になっていたなら声をかけて下さったら良かったのに!
秀吉さんがたまには、と連れ出して下さったんです」
そこで千花は薄らと、顔を赤らめた――そしてその表情を窺う俺の視線に気付き、恥じらうような笑みを浮かべ。
「最近、光秀さんとあまりお話出来て居なかったから、寂しそうにしていたのに気付いてくださって。
秀吉さんに、励ましてもらいました」
頭を撫でる、秀吉の姿を思い返す…奴なりの振る舞いだったのか、と思うと同時に。
やはり寂しい思いをさせていたか、と思い当たり、胸が痛む――
「そうだそこで、助言を頂いて!
私、信長様の所に行って来たんです」
「ほう、何をしに?」
「光秀さんに、たまにはお休みを下さい、ってお願いをしにですよ!」
大胆な振る舞いに驚かされつつ、すっかり冒険譚を聞くような心地で千花の声に耳を傾ける。
信長様にあれこれ言われたが、なんとか俺の休みを勝ち取った、と…身振り手振りを交え語る、きらきらとした眼に魅入られながら。