第8章 【明智光秀】拈華微笑
自室の襖をピシャリ、と閉め。
気が立ってしまったのか何もせずにはいられず、あれやこれやと思いを巡らせる――主に、自らの胸の内に積もる靄、その正体について。
千花に限って、他の男と通じているなどとは勿論考えていない。
何も決定的な瞬間を見たわけでもなく、誰か一人と親密にしている訳でもなく…
結局、詰まる所は――
「光秀様っ!
帰ってらしたのですね…っ!!」
随分と思案に耽っていたのか…すぱん、と開けられた襖、そして千花の満面の笑みに、漸く我に返る。
急いで夕餉にしましょう、と忙しなく動き回る姿に、毒気を抜かれたような心地。
「今日は、私が夕餉を用意したんです!」
「千花が?」
「政宗に、疲れてる時に良い献立は何か教えて貰って…鍋物なんですけど、にんにくを少し入れてみました!
会津の名物らしくて、少し分けてもらったんです」
朝一番で政宗に会っていたのはそういう事か、と合点が行き。
千花がよそった汁を一口啜る。
「光秀様、どうですか?」
「あぁ…美味い、な」
じっと見つめてくる眼を見つめ返せず、椀に視線を注いだままの返事にも。
千花は良かった、と手を合わせて喜ぶと、それから自分も漸く箸を取った。
「あと、光秀様が探してらした歌集が手に入ったと、三成くんが教えてくれて!
書庫に取りに行ってきました」
「…そうか」
それで珍しく書庫に居たのか、と。
光秀は納得がいったと共に、自らの勘違いにまたも気付いて、少し目を伏せた。
「三成くんによると、仮名が多くて私も読みやすいそうです。
また手習いがてら、一緒に読みたいなぁと…読み方を、教えて下さいますか?」
「勿論、いつでも構わない」