第8章 【明智光秀】拈華微笑
「お楽しみは明日だ…話しならじっくり聞いてやろう。神妙に致せ」
謀叛を企てた、逆賊一味を捕らえ。
地下の牢に放り込んで、そう声をかけてやると、奴等は真っ青な顔で震え上がった。
あの後、我ながら珍しい事に家来たちを待たず隣の部屋へと踏み込み。
苛立ちそのままに刀を振るい、気づけば全員を捕縛していた。
呆気に取られる家来たちに一味を引き渡し、更に開いた口が塞がらない様子の宿屋の主人に、袋に詰めた銭を握らせた。
滅茶苦茶にしてしまった部屋の修繕と、一週間の滞在費としては釣りが返ってくるくらいだ。
「…御館様に、報告せねばならぬな」
そしてまた、天主への長い階段を上がっていく。
もう日も大分傾いてきた。
少し早いが、今日はこれで流石に御殿へ下がるとしよう、と心に決め、信長様への謁見を願い出る…すると。
「明智様、丁度千花様がお見えです。天主様へのお目見えは、一緒で構いませんか」
天主付きの女中に思いもよらぬ言葉をかけられ、思わず動きを止める。
そして、広間から漏れ聞こえる二人の高らかな笑い声に、耳を塞ぎたくなる様な心地――
怪訝そうにこちらを伺う様子の女中を遮り、書くものを持ってこさせると。
今日の顛末を簡単に書き記し、信長様に渡すよう言付け、天主を…引いては、城を後にする。
――今日の自分は、どうかしている。
何気ない一つ一つの偶然が、こうも重なる物かと。
まるでこちらの動きを読まれているような、千花の行動を思い返しながら。
一人ひとりとの逢瀬を見せ付けられるような感覚に、またじわり、と胸中が歪む。