第8章 【明智光秀】拈華微笑
「ほんと?三成くん、ありがとう!」
「いいえ、これしきのこと。千花様にお喜び頂けて、嬉しい限りです」
書庫に足を踏み入れる、その瞬間。
聞き間違いようのない千花の声と、三成の声が聞こえ…思わず、さっと身を隠す。
年の頃の近い二人は、千花が此の世にやって来てからというもの仲良くしている事が多かった。
いつもにこやかな三成と、これまた笑顔の絶えない千花の組み合わせは微笑ましく映ることもあったが…今の自分には毒でしかない、と心得ている。
「それじゃあ、借りていくね。ありがとう、三成くん」
「はい。また何かありましたらお申し付け下さい」
そんなやり取りと、千花の足音が聞こえ。
ここで出会すのも何か、と逃げる様に踵を返す――
そしてまた層の様に、胸中にどす黒く靄が溜まるのを感じながら。